「遺品整理の出張見積もりを頼みたいけれど、部屋が散らかりすぎていて人を呼べない……」
「査定してもらう前に、少しでもホコリを拭き取っておいた方がいいのかな?」
「ゴミ屋敷のような状態で業者を呼んだら、足元を見られるんじゃないか?」
初めて出張買取や遺品整理業者を呼ぶ際、多くの方がこのような「準備」や「恥ずかしさ」に関する悩みを抱えています。大切なご家族を亡くされた悲しみの中で、大量の荷物をどう整理すべきか途方に暮れている方も多いでしょう。
しかし、長年この業界に身を置くプロとして、声を大にしてお伝えしたい衝撃的な事実があります。
プロを呼ぶ前に、頑張って片付けや掃除をしてはいけません。
「えっ、散らかったままでいいの?」「掃除しないなんて失礼じゃない?」と思われるかもしれません。ですが、良かれと思ってお客様が行った準備が、実は「買取価格を数万円〜数十万円下げる」原因になったり、腰を痛めるだけの「無駄な労力」に終わったりするケースが後を絶たないのです。
この記事では、お客様の利益と身体を守るために、「査定前に絶対にやってはいけない3つのこと」と、逆に「たった一つだけやってほしいこと」について、プロの視点から徹底的に解説します。これを読めば、今の「散らかったままの状態」ですぐに電話していい理由、そしてそれが最も賢い選択である理由が分かります。
やってはいけない①:「ゴミ」だと判断して捨ててしまうこと
遺品整理の現場で最も頻繁に起こり、かつ最も損失が大きいのがこの「自己判断による廃棄」です。
お客様が「これはゴミだ」と判断して捨ててしまったゴミ袋。その中身を見て、私たち査定員が「ああ、もったいない……!」と天を仰ぐことは一度や二度ではありません。お客様にとっての「不用品」と、中古市場における「価値ある商品」には、埋められない認識のズレがあるのです。
なぜ「ゴミ袋」が宝の山なのか?
第1記事でも少し触れましたが、査定の前にご自身でゴミ袋に詰める作業は今すぐストップしてください。私たちプロが到着して一番悲しいのは、**「すでにゴミ捨て場に運ばれてしまった袋」**を見ることです。
具体的に、どのようなものが「ゴミ」と間違えられやすく、かつ「高値」がつくのでしょうか。
1. ボロボロの紙類・書類
整理をしていると、古びた茶色い封筒や、黄ばんだ紙切れがたくさん出てくると思います。
「ただの古い紙くず」と思って捨ててしまいがちですが、ここにお宝が眠っています。
- 古い絵葉書・古地図: 戦前(昭和初期や明治・大正)の風景が写った絵葉書や、当時の地図は、歴史資料としての価値があり、1枚数千円で取引されることも珍しくありません。
- 切手・消印: 使用済みの切手や、封筒に押された消印にもコレクターがいます。封筒ごと残っていることが重要です。
- パンフレット・カタログ: 昭和の古い車やバイク、電化製品のカタログは、マニアの間で高値で取引されます。
- 書簡・手紙: もし故人が著名な方と交流があった場合、その手紙(書簡)には驚くような価値がつきます。
2. 汚れた木箱・空箱
「中身が入っていない空箱なんて邪魔なだけ」と思って捨てていませんか?
骨董品や茶道具の世界では、「箱(共箱)」は本体の一部、あるいは本体以上の証明書としての役割を持っています。
- 茶道具・陶器の箱: 箱の蓋の裏に、作家のサイン(箱書き)があるものは絶対に捨ててはいけません。箱があるかないかで、査定額が「10万円」と「1万円」くらい変わることもあります。
- おもちゃの箱: ブリキのおもちゃや超合金などは、ボロボロでも箱があれば評価額が倍増します。
- オーディオ・カメラの箱: 高級ブランドの場合、空箱だけでも数千円で売れることがあります。
3. 壊れたように見える道具類
「ペン先が曲がっている万年筆」「錆びた鉄瓶」「動かない時計」。
これらは一見すると不燃ゴミですが、素材や部品としての価値があります。
- 万年筆: ペン先に「14K」「18K」などの刻印があれば、それは金です。壊れていても金としての価値がありますし、ブランド品なら部品取りとしての需要があります。
- 鉄瓶: 銀瓶や龍文堂などの銘が入った鉄瓶は、錆びて穴が開いていても中国市場などで超高額取引されています。
- 壊れたアクセサリー: 千切れたネックレス、片方だけのピアスも、金やプラチナであれば当日の相場で買取可能です。
「要るか要らないかの判断」そのものを、私たちに丸投げしてください。
プロは一瞬で「市場価値があるか」を見分けます。お客様は何時間もかけて分別する必要はありません。むしろ、何もしないことが最大の利益防衛策なのです。
やってはいけない②:汚れを「掃除」や「修理」しようとすること
日本人の美徳として、「人に物を見せる時はきれいにしてから」という意識があると思います。
「少しでも高く売りたい」「汚いまま見せるのは恥ずかしい」という親切心から、古い家具を洗剤でゴシゴシ拭いたり、錆びた刀剣を磨いたりする方がいらっしゃいますが、これは査定額を下げる「逆効果」になるリスクが極めて高いです。
「きれいにする」ことが価値を下げる理由
なぜ、掃除をしてはいけないのでしょうか。新品の商品であればきれいな方が良いのですが、中古品、特に骨董・アンティークの世界では常識が異なります。
1. 「時代感(パティーナ)」の消失
古い道具や家具には、長い年月を経て付着した汚れ、色褪せ、錆(さび)、手擦れなどがあります。これらを専門用語で「パティーナ(古色)」と呼びます。
骨董好きにとって、この**パティーナこそが「本物の証」であり、「味わい」**なのです。
強力な洗剤や漂白剤を使ってピカピカに磨いてしまうと、このパティーナが完全に失われ、「ただの汚れた古いもの」あるいは「リメイク品」と見なされてしまいます。
例えば、時代箪笥(たんす)の金具をピカールなどの研磨剤でピカピカにしてしまうと、数万円単位で価値が下がることがあります。
2. 破損・劣化のリスク
長年保管されていたものは、見た目以上に素材が劣化しています。
- 掛け軸・日本画: ホコリを払おうとしてハタキをかけたら、紙がパリッと裂けてしまった。シミを抜こうとして水拭きしたら、絵具が滲んで台無しになった。これらは取り返しがつきません。
- 着物: 畳み直そうとしたら、折り目から生地が裂けてしまった。
- 陶磁器: 洗おうとして、水につけた瞬間に貫入(ヒビ)から水が染み込み、変色してしまった。
3. 修理による価値の低下
「壊れているから直しておこう」と、素人判断で接着剤を使ったり、塗装したりするのもNGです。
プロの修復師は、可逆性のある(元に戻せる)特殊な接着剤を使いますが、市販の瞬間接着剤を使われると、もう二度と正しい修理ができなくなります。
「壊れたまま」の方が、プロにとっては扱いやすいのです。
ホコリはそのままで構いません。カビが生えていても大丈夫です。
私たちプロは、汚れの奥にある「モノの本質(真贋)」を見抜く目を持っています。「汚くて申し訳ない」と謝る必要は一切ありません。そのままの状態でお見せいただくことが、最も高く売るコツです。
やってはいけない③:重い家具や荷物を動かすこと
「査定員さんが見やすいように」「運び出しやすいように」と、タンスやミシン、冷蔵庫などを玄関や広い部屋まで運ぼうとする方がいらっしゃいますが、これも絶対にやめてください。
お客様の身体と家を守るために
遺品整理には、大型の家具や家電がつきものです。これらを不慣れな方が動かすことには、大きなリスクが伴います。
1. お怪我のリスク
何より心配なのは、お客様自身の怪我です。
昔の婚礼家具や、足踏みミシン、オーディオ機器などは、現代の製品とは比較にならないほど重量があります。
慣れない姿勢で持ち上げようとしてぎっくり腰になったり、足の上に落として骨折したりする事故は、引越しや遺品整理の準備中に多発しています。
これから大事な手続きが続く時期に、お体を壊されては大変です。
2. 家屋の損傷(養生の重要性)
重いものを引きずってフローリングに深い傷をつけたり、搬出中に壁にぶつけて穴を開けたりしてしまうと、家の資産価値を下げてしまいます。
特に、賃貸物件や、これから売却を考えている持ち家の場合は、修繕費用(原状回復費用)が発生してしまい、買取金額以上の出費になりかねません。
私たち業者は、搬出のプロフェッショナルです。
必要に応じて、壁や床を保護する「養生(ようじょう)」を行い、専用のベルトや台車を使って安全に運び出します。
3. 商品価値の毀損
移動中に角をぶつけたり、落としたりして家具に傷がつくと、当然ながら査定額は下がります。
また、セットになっているものをバラバラの場所に移動させてしまい、「付属品欠品」と判断されてしまうケースもあります。
「あそこの部屋にあるアレを見てください」
査定の際は、指を差していただくだけで十分です。
押入れの奥にあろうが、物置の隅にあろうが、スタッフがライトを持って潜り込みます。動線を確保するのもスタッフの仕事ですので、お客様は安全な場所で座ってお待ちください。
唯一やってほしいこと:「残したいもの」の確保だけ
ここまで「何もしないでください」と繰り返してきましたが、たった一つだけ、お客様ご自身にお願いしたいことがあります。
それは、掃除でも分別でもなく、「絶対に手放したくないもの(形見・重要書類)」を物理的に分けておくことです。
業者任せにできない「心の整理」
どれだけ優秀な業者であっても、お客様の「思い出」の重さまでは判断できません。
間違って処分・買取してしまってからでは取り返しがつかないため、以下のものは査定前に確保をお願いします。
1. 重要書類・貴重品
- 実印、銀行印、通帳、カード類
- 権利書(不動産登記識別情報)、契約書
- 年金手帳、保険証券
- 現金(タンス預金やへそくりがないか、着物の袖やタンスの奥をご確認ください)
- 貴金属(売る気がない結婚指輪など)
2. 心の価値が高い「思い出の品」
- 写真アルバム、ネガフィルム
- 故人の日記、手帳、手紙
- 位牌、遺影
- 故人が愛用していた眼鏡やパイプなど、金銭的価値はなくても手元に残したいもの
具体的な確保の方法
これらの品物は、以下のように区別してください。
- 別の部屋に移す: 「この部屋のものは一切触らないで」と指示できる部屋にまとめておくのがベストです。
- 張り紙をする: 動かせない場合は、マスキングテープなどで「残すもの」「売らない」と張り紙をしておいてください。
- 風呂敷や箱にまとめる: 「この箱の中身は形見です」とスタッフに伝えてください。
これらが済んでいれば、それ以外の大量の荷物については、**「全部どうするか迷っている」「プロの目で見て判断してほしい」**という状態で呼んでいただいて全く構いません。
まとめ:散らかった部屋こそ、プロの出番です
遺品整理や出張買取において、お客様がすべき「最も賢い準備」をおさらいしましょう。
【査定前の正しい準備 3ヶ条】
- 捨てない(ゴミ袋に入れない)
- 磨かない(掃除しない)
- 動かさない(運ばない)
そして、
- 「残すもの」だけ決めて、別の場所に避けておく
「こんなに散らかった汚い部屋を他人に見せるのは失礼ではないか」「だらしないと思われるのではないか」と心配されるお気持ちはよく分かります。
しかし、私たち遺品整理・買取のプロは、毎日そのような現場(時には足の踏み場もなく、天井まで荷物が積まれた現場)に入り、宝探しをしています。
むしろ、「手つかずの状態」であればあるほど、高価買取のチャンスが眠っていると私たちはワクワクするものです。きれいに片付けられた部屋よりも、生活感がそのまま残った部屋の方が、思わぬお宝に巡り合える可能性が高いことを知っているからです。
雑巾やゴミ袋を持つ前に、まずは電話機を持ってご相談ください。
一番楽で、一番安全で、そして一番お得にお部屋を片付ける方法を、私たちがご提案します。

