遺品整理の現場でご遺族様から特によく寄せられるのが、故人が愛用していたピアノの扱いです。「部屋にあるこの大きなピアノ、どうすればいいのか…」「アップライトピアノと電子ピアノ、どちらが価値があるのだろう?」といったご相談は後を絶ちません。
どちらも大型で重量があり、処分、運搬、買取の判断を誤ると、予期せぬ大きな出費や、本来得られたはずの価値を失うことにもなりかねません。
結論からお伝えすると、この二つのピアノには価値の付き方と売却のしやすさに明確な違いがあります。
- 価値が高く、高額で売れる可能性がある → アップライトピアノ(ただし、ブランドや状態に大きく左右される)
- 扱いやすく、手堅く売却しやすい → 電子ピアノ(年式と型番が価値の決め手)
この記事では、遺品整理でピアノの扱いに悩んでいる方のために、アップライトピアノと電子ピアノの価値判断のポイント、買取相場、処分にかかる費用、そして最も負担の少ない整理方法まで、専門家の視点から徹底的に比較・解説します。
そもそも違う楽器?アップライトピアノと電子ピアノの基本的な違い
見た目は似ていますが、この二つは根本的に異なる楽器です。その違いを理解することが、価値を正しく判断する第一歩となります。
アップライトピアノ:伝統的なアコースティック楽器
アップライトピアノは、内部に張られた本物の弦をハンマーが叩くことで音を出す、伝統的なアコースティック(生)ピアノです。電気を一切使わず、その構造自体が豊かな響きを生み出します。
- 構造と音:鍵盤を押す力がアクション機構を伝ってハンマーを動かし、弦を叩いて音を出します。その複雑な倍音と響きは、アコースティックピアノならではの魅力です。
- 重量:頑丈な木材のフレームと金属のフレーム、そして多数の弦とアクション機構を内蔵しているため、重量は200kg~250kgにもなります。成人男性でも数人がかりでなければ動かせません。
- メンテナンス:弦の張力は温度や湿度で変化するため、美しい音を保つには定期的な「調律」が不可欠です。
- 価値の決まり方:中古市場では、ブランド(メーカー)、モデル、製造年、そして楽器の状態によって価値が大きく変動します。
- 代表的なブランド:YAMAHA(ヤマハ)、KAWAI(カワイ)、DIAPASON(ディアパソン)、STEINWAY & SONS(スタインウェイ)など。
電子ピアノ:技術でピアノの音を再現する電子楽器
電子ピアノは、アコースティックピアノの音をデジタル録音(サンプリング)し、鍵盤を押すとその音がスピーカーから再生される仕組みの電子楽器です。
- 構造と音:内部に弦やハンマーはなく、電子回路とスピーカーで構成されています。近年のモデルは、鍵盤のタッチ感を本物のピアノに近づけるための精巧なセンサーや機構を備えています。
- 重量:本格的な鍵盤とスピーカーを搭載していても、重量は30kg~80kg程度。アップライトピアノに比べればはるかに軽量です。
- メンテナンス:弦がないため調律は不要です。メンテナンスフリーで手軽に楽しめるのが最大の利点です。
- 価値の決まり方:電化製品と同様に、製造年式と型番で中古価値がほぼ決まります。新しいモデルほど価値が高くなります。
- 代表的な人気モデル:YAMAHA Clavinova(クラビノーバ)、Roland HP/LXシリーズ、KAWAI CN/CAシリーズなど。
どっちが高く売れる?アップライトと電子ピアノの価値を比較
では、本題である「どちらが高く売れるのか」を具体的に見ていきましょう。
【高額買取の可能性を秘める】アップライトピアノ
正しく評価されれば、数十万円単位での高額買取も夢ではないのがアップライトピアノです。その価値は骨董品のように、ブランド、年式、そして何より保存状態という3つの要素が揃うことで決まります。
高く売れるアップライトピアノの条件:
- 人気ブランド:YAMAHAやKAWAIのピアノは国内での需要が非常に高く、安定した価格で取引されています。特に海外への輸出需要も高く、買取業者が積極的に仕入れたい対象です。
- 製造年が比較的新しい:一つの目安として製造から20年以内のモデルは、楽器としての需要が高く、高値がつきやすくなります。
- 外装の状態が良い:大きな傷、日焼けによる変色、パネルのひび割れなどがない、美しい外装は査定額を大きく左右します。
- 内部の状態が良い:弦の錆び、ハンマーの摩耗、響板の割れなどがなく、定期的に調律されていたピアノは高く評価されます。
高額査定が期待できるモデル例:
- YAMAHAの「U1」「U3」シリーズ:ピアノ教室から家庭まで幅広く普及した定番モデルで、中古市場での需要が非常に高いです。
- KAWAIの「KU」シリーズ:その音色の良さから根強い人気があり、状態が良ければ高価買取が期待できます。
ただし、製造から30年以上経過している古いモデルや、長年調律されず放置されていたピアノは、修理や運搬のコストが見合わず、買取不可となるケースも少なくありません。
【手堅く売却しやすい】電子ピアノ
アップライトピアノほどの爆発的な高額査定は稀ですが、市場が安定しており、売却しやすいのが電子ピアノの魅力です。スマートフォンのように、新しいモデルほど高く、古いモデルは安くなるという非常に分かりやすい価値基準です。
売れやすい電子ピアノの条件:
- 年式が新しい:製造から10年以内が買取の主なターゲットです。特に5年以内のモデルは、新品に近い価格で取引されることもあります。
- 人気シリーズの型番:YAMAHAのクラビノーバ(CLP/CVP)、RolandのHP/LXシリーズ、KAWAIのCN/CAシリーズなどは、中古でも買いたいという人が多いため、高値がつきやすいです。
- 状態が良い:全ての鍵盤から正常に音が出る、鍵盤の戻りに問題がない、ボタンや液晶が正常に動作するなど、楽器としての基本機能が保たれていることが重要です。
高額査定が期待できるモデル例:
- YAMAHA CLP-600番台、700番台
- Roland HP704, LX705
- KAWAI CA49, CN29
これらのモデルは中古市場でも人気があり、付属品が揃っていれば安定した価格での買取が可能です。
【重要】処分費用のリスク比較|知らずに損をしないために
買取が難しい場合、「処分」という選択肢が浮上しますが、ここにも大きな費用の違いがあります。
- アップライトピアノの処分費用:15,000円~30,000円以上。専門の運搬業者が必要で、階段作業やクレーンでの吊り上げが必要な場合は、費用が50,000円を超えることもあります。
- 電子ピアノの処分費用:5,000円~15,000円前後。年式が古く買取不可と判断された場合にかかる費用です。不用品回収業者に依頼するのが一般的です。
どちらも安くない費用ですが、遺品整理・買取業者をうまく利用すれば、この負担を大幅に軽減できます。例えば、電子ピアノであれば無料で運び出してもらえたり、アップライトピアノの処分費用を、同時に買い取ってもらう他の遺品の買取額で相殺したり、といった方法が可能です。これにより、遺品整理にかかる総費用を大きく抑えることができます。
遺品整理における「売るべきか」の判断基準まとめ
ご自宅にあるピアノがどちらのケースに当てはまるか、確認してみましょう。
✔ アップライトピアノを「売る」ことを優先すべきケース
- 製造から20年以内のYAMAHA、KAWAIのピアノ
- 外装に目立つ傷がなく、鍵盤やペダルも綺麗
- 定期的に調律していた記録(調律カードなど)が残っている
✔ 電子ピアノを「売る」ことを優先すべきケース
- 製造から10年以内、特に5年以内の新しいモデル
- YAMAHAクラビノーバなど、中古市場で人気の型番
- 専用の椅子やペダルユニットなどの付属品がすべて揃っている
✔ どちらも売れず「処分」を検討する必要があるケース
- 水害などで水没した跡があるピアノ
- 長年のペット臭やタバコのヤニ汚れが染み付いている
- 海外製やメーカー不明で、修理部品の供給が終了している
- 30年以上経過した古いアップライトピアノで、メンテナンスもされていない
このような「売れない」と判断されたピアノでも、諦めるのはまだ早いです。遺品整理業者に「まとめ査定」を依頼すれば、他の価値ある品々と合わせて費用を相殺し、結果的に負担なく処分できる可能性があります。
まとめ|アップライトと電子ピアノ、売り方が違うだけ
遺品整理で出てきたピアノの扱いは、その種類によって最適なアプローチが異なります。
- アップライトピアノ:ブランドと状態が良ければ高額買取の可能性を秘めている。資産価値を重視した査定が必要。
- 電子ピアノ:新しさが価値の決め手。手堅く売りやすく、他の遺品と合わせれば実質無料で撤去しやすい。
どちらのピアノであっても、その価値を決めるのは「ブランド・年式・状態」です。そして、遺品整理においては、買取が難しい場合の「処分費用をいかに減らすか」という視点も同じくらい重要になります。
重くて動かせないピアノを前に途方に暮れてしまう前に、まずは専門家にご相談ください。遺品整理からピアノの査定、そして大型品の搬出までをワンストップで任せることで、ご遺族様の身体的・精神的な負担を最小限に抑えながら、故人の大切なピアノを最も良い形で整理することが可能になります。

