遺品整理を進めていると、故人が愛用していた品々が次々と出てきます。その中でも、部屋の隅やクローゼットの奥から、電子ピアノやキーボードが見つかることは珍しくありません。しかし、見た目が似ているこれらの楽器を前に、多くの方が「これは電子ピアノなの?それともキーボード?」「どちらが高く売れるのだろうか?」と、その扱いに頭を悩ませてしまいます。
結論からお伝えすると、この二つの楽器には明確な違いがあり、その価値も大きく異なります。
- 電子ピアノ:重量があり本格的な構造で、買取対象となるモデルが多い。
- キーボード:軽量で持ち運びやすいが、機種によっては買取が難しい場合もある。
この違いを理解せずに処分や買取を進めてしまうと、本来価値があったものを見過ごしてしまったり、逆に処分に余計な手間や費用がかかってしまったりする可能性があります。
そこでこの記事では、遺品整理で電子ピアノやキーボードが出てきた際に失敗しないために、それぞれの見分け方、価値を判断する具体的なポイント、そして処分と買取の最適な選択肢について、専門的な視点から詳しく解説します。大切な遺品を適切に整理するため、ぜひ最後までお読みください。
電子ピアノとキーボードの違いとは?見た目以上に重要な「目的」の違い
電子ピアノとキーボードは、どちらも鍵盤を押して音を出す電気楽器ですが、その設計思想や主な用途は全く異なります。この根本的な違いを理解することが、価値を見極める第一歩となります。
【電子ピアノ】アコースティックピアノの演奏体験を家庭で
電子ピアノは、その名の通り「アコースティックピアノ(生のピアノ)の演奏感を電子技術で再現すること」を最大の目的として開発された楽器です。そのため、構造や機能はすべて「いかにピアノに近づけるか」という点に集約されています。
- 鍵盤数とタッチ:鍵盤数は、アコースティックピアノと同じ88鍵が基本です。また、鍵盤にはハンマーアクション機構などが内蔵されており、弾いたときに「重み」や「手応え」を感じられるようになっています。このリアルなタッチ感は、ピアノの練習において非常に重要な要素です。
- サイズと重量:本格的な鍵盤機構やスピーカーシステムを搭載しているため、大型で重量があります。軽いモデルでも30kg前後、上位機種になると80kgを超えることも珍しくありません。そのため、一度設置すると簡単に動かすことはできません。
- 需要と市場:「自宅でピアノの練習をしたい」という層から絶大な支持を得ており、特に子どもたちのピアノレッスン用として安定した需要があります。そのため、中古市場でも人気が高く、価値が落ちにくい傾向にあります。
代表的なモデルシリーズ:
- YAMAHA Clavinova(クラビノーバ)シリーズ
- Roland HP / LX / DP シリーズ
- KAWAI CN / CA シリーズ
これらのシリーズは中古市場でも非常に人気があり、遺品整理で見つかった場合は高価買取が期待できる代表格と言えるでしょう。
【キーボード】手軽さと多機能性を追求した楽器
一方、キーボード(ポータブルキーボードやシンセサイザーを含む)は、手軽に音楽を楽しむことや、多彩な音色・機能を使って音楽制作を行うことを目的としています。ピアノの再現性にこだわるのではなく、軽量性や多機能性が重視されています。
- 鍵盤数とタッチ:モデルによって様々ですが、49鍵、61鍵、76鍵などが主流です。鍵盤はプラスチック製で軽く、「ピアノタッチ」とは異なる軽快な弾き心地です。この軽さは、指の力が弱い初心者やお子様でも気軽に音を出せるという利点があります。
- サイズと重量:非常に軽量でコンパクトなモデルが多く、数kg程度のものがほとんどです。電池駆動に対応している機種も多く、どこへでも持ち運んで演奏を楽しめるのが最大の魅力です。
- 機能と市場:ピアノの音だけでなく、オルガン、ストリングス、ドラムなど何百種類もの音色を内蔵していたり、自動伴奏機能がついていたりと、一台で様々な音楽表現が可能です。ただし、入門用の安価なモデルが市場に多く流通しているため、中古品としての価値はつきにくい傾向があります。
代表的なメーカー・シリーズ:
- CASIO Casiotone(カシオトーン)シリーズ
- YAMAHA PSR / piaggero(ピアジェーロ)シリーズ
- Roland GO:KEYS / JUNO シリーズ
これらの手軽なキーボードは、残念ながら遺品整理の買取では値段がつかないケースも少なくありません。
電子ピアノとキーボード、どちらが高く売れるのか?
遺品整理においては、「売れるもの」と「処分が必要なもの」を正しく仕分けることが重要です。楽器の場合、その判断はどこで行うべきなのでしょうか。
高価買取が期待できるのは圧倒的に「電子ピアノ」
結論として、中古市場で安定して高い価値がつくのは**「電子ピアノ」**です。その背景にはいくつかの理由があります。
- 定価が高い:電子ピアノは新品の定価が10万円〜40万円以上と高額です。そのため、中古品であっても一定の資産価値が残りやすくなります。
- 安定した需要:前述の通り、ピアノ教室に通う子どもや、趣味でピアノを始めたい大人からの需要が常に安定しています。特に人気メーカーの上位モデルは、中古でも購入したいという人が後を絶ちません。
- 型番による価値の明確化:電子ピアノはモデルごとの性能差が大きく、「どの型番か」によって中古相場がほぼ決まります。そのため、査定がしやすく、価値が明確です。
- 運搬の難しさ:個人で売買するには重すぎて運搬が困難です。そのため、「運搬から買取まで一括でお願いしたい」というニーズが強く、専門の買取サービスの利用が一般的となっています。これが、安定した買取市場を形成している一因です。
高価買取が期待できるモデル例:
- YAMAHA クラビノーバ (CLP/CVPシリーズ):電子ピアノの代名詞ともいえるシリーズ。特に製造から5年以内の上位モデルは非常に高値で取引されます。
- Roland HP704 / LX705:デザイン性と性能のバランスが良く、中古市場でも根強い人気を誇ります。
- KAWAI CN29 / CA49:木製鍵盤を搭載したモデルなど、本格志向のユーザーから支持されており、相場が安定しています。
キーボードは「モデル次第」で価値が大きく変動
キーボードは一括りに「価値が低い」と判断するのは早計です。安価な入門用モデルが多い一方で、プロ仕様の高級機も存在します。価値がつくかどうかは、そのキーボードの「種類」にかかっています。
買取が期待できるキーボードの種類:
- シンセサイザー:音を合成・加工する機能に特化したキーボードです。RolandのJUNOシリーズやKORGのminilogue、YAMAHAのMONTAGEなどは、音楽制作者からの需要が高く、高価買取の対象となります。
- ステージキーボード(ステージピアノ):ライブでの使用を想定した、高品位な音源と耐久性を備えたキーボードです。Nord、Roland、KORGなどのプロ向けモデルは価値が落ちにくいです。
- 中級〜上級者向けモデル:YAMAHAのPSR-Sシリーズなど、多彩な機能を持つアレンジャーキーボードの上位機種も買取対象になることがあります。
買取が難しいキーボードの例:
- 低価格帯の入門用キーボード:家電量販店などで1〜3万円程度で販売されていたモデルは、中古市場に溢れているため、ほとんど値段がつきません。
- 年式が古く機能に問題があるもの:10年以上前に購入したもので、液晶が見えにくい、ボタンの反応が悪い、といった不具合がある場合は買取が困難です。
- 鍵盤の劣化:鍵盤が黄ばんでいる、押しても戻ってこない、特定の音が鳴らないといった物理的な故障がある場合も、修理コストが見合わないため処分対象となることがほとんどです。
遺品整理で失敗しない!電子ピアノ・キーボードの価値を見極める4つの方法
では、目の前にある楽器の価値を具体的にどうやって調べればよいのでしょうか。以下の4つのポイントを確認することで、おおよその価値を把握することができます。
① 型番を確認する(最重要ポイント)
電子ピアノや価値のあるキーボードの査定において、「型番」は最も重要な情報です。型番が分かれば、そのモデルの発売時期、当時の定価、現在の市場価値まで、ほぼすべての情報が特定できます。
型番の例:
- YAMAHAの電子ピアノ → 「CLP-745」「CVP-805」など
- Rolandの電子ピアノ → 「HP704-LA」「LX708-PWS」など
- KAWAIの電子ピアノ → 「CA49R」「CN29DW」など
型番の記載場所:
- 本体正面:鍵盤のすぐ上や、本体の右端・左端にメーカーロゴと一緒に記載されていることが多いです。
- 本体の裏側や底面:本体を少し動かして、裏や底に貼られている銀色のシール(銘板)を確認します。
- 鍵盤の下(前面):椅子に座ったとき、膝のあたりに来る部分にシールが貼られていることもあります。
- 取扱説明書や保証書:本体で見つからない場合、一緒に保管されている書類に必ず記載があります。
型番が分かったら、インターネットで「(型番) 買取相場」と検索してみることで、おおよその価値を知ることができます。
② 年式(製造年)を確認する
電子ピアノは電子機器であるため、年月の経過とともに価値は下がっていきます。製造年式は価値を判断する大きな目安となります。
- 製造から5年以内:非常に新しいモデルです。機能やデザインも現行品に近く、需要が最も高いため、高価買取が期待できます。
- 製造から10年以内:中古市場で最も多く流通している価格帯です。楽器の状態が良ければ、十分に価値が見込めます。
- 製造から15年以上:この年式になると、買取が難しくなるモデルが増えてきます。ただし、当時の最上位機種など一部のモデルは価値が残っている場合もあります。また、メーカーの部品保有期間が終了し、修理が困難になることも査定額に影響します。
製造年は、型番と同じく本体の銘板シールに「2018年製」のように記載されています。
③ 鍵盤や本体の状態をチェックする
楽器としての機能が正常に保たれているかは、査定額を左右する重要なポイントです。すべての鍵盤から正常に音が出るか、必ず確認しましょう。
- 鍵盤の状態:長期間使用されたピアノによく見られる「白鍵の黄ばみ」、鍵盤を押したときの「ガタつき」や「異音」、押しても戻りが悪い鍵盤がないかを確認します。
- 音の問題:特定の鍵盤だけ音が出ない、音量が極端に小さい、スピーカーからノイズがする、などの不具合がないかチェックします。
- 本体の傷や汚れ:目立つ大きな傷、日焼けによる変色、シール跡なども査定に影響します。
多少の不具合であれば買取可能なケースも多いですが、修理が必要なほどの重度な故障は大幅な減額、または買取不可の原因となります。
④ 付属品の有無を確認する
購入時に付属していたものが揃っていると、査定額がアップします。遺品整理の際は、本体だけでなく周辺もよく探してみましょう。
- 専用の椅子:本体とセットで販売されている専用椅子は、あるとないとでは査定額が大きく変わります。
- 電源コード・ACアダプター:動作確認に必須です。紛失していると大幅な減額対象となります。
- ペダルユニット:本体に固定されているタイプと、別になっているタイプがあります。
- 取扱説明書、保証書:次の購入者にとって安心材料となるため、プラス査定の対象です。
- ヘッドホン、楽譜、カバーなどもあれば一緒に査定に出しましょう。
処分か買取か?最適な判断基準とは
ここまでのポイントを踏まえ、具体的に「買取」と「処分」のどちらを選ぶべきか、判断基準を整理します。
【買取】がおすすめのケース
以下の条件に当てはまる場合は、買取を依頼することをおすすめします。お金に換えられるだけでなく、故人が大切にしていた楽器を、次に必要としている人へ繋ぐことができます。
- 人気メーカーの電子ピアノ(YAMAHAクラビノーバ、Roland、KAWAIなど)
- 製造年数が10年以内である
- 専用の椅子やペダルなどの付属品が揃っている
- すべての鍵盤から正常に音が出るなど、楽器としての状態が良い
- シンセサイザーやステージキーボードなどのプロ・上級者向けモデル
【処分】を検討すべきケース
一方で、以下のような場合は残念ながら買取が難しく、処分を検討する必要があります。
- 量販店で購入した低価格帯のキーボード
- 音が出ない、鍵盤が戻らないなど、楽器として重度の故障がある電子ピアノ
- 製造から15年以上経過し、デザインが古く、修理用部品もないモデル
- エレクトーン(電子ピアノとは構造が異なり、中古市場が非常に小さいため、一部の最新モデルを除き買取は極めて困難です)
ただし、「処分」と判断した場合でも、自治体の粗大ゴミに出すには手続きや搬出の手間がかかります。特に電子ピアノは重く、自力での運び出しは非常に危険です。このような場合でも、遺品整理業者に依頼すれば、他の買取品と相殺したり、安全に搬出してもらえたりするメリットがあります。
まとめ|電子ピアノとキーボードの違いを知り、後悔のない遺品整理を
遺品整理で出てきた鍵盤楽器の扱いは、その正体を知ることから始まります。
- 電子ピアノは「ピアノの代用品」であり、重量があるが資産価値も高い。
- キーボードは「手軽な多機能楽器」であり、軽量だがモデルによっては価値が低い。
この基本的な違いを理解した上で、「型番」「年式」「状態」「付属品」の4つのポイントを確認すれば、その楽器が持つ本当の価値が見えてきます。
価値がある電子ピアノを誤って処分してしまったり、価値のないキーボードの売却に時間を費やしてしまったりといった失敗を避けるために、まずは落ち着いて楽器を観察することが大切です。
そして、重くて動かせない電子ピアノや、価値の判断が難しい楽器が出てきたときは、無理に自分で解決しようとせず、専門知識を持ったプロに相談するのが最も安全で確実な方法です。専門業者であれば、遺品整理全体の作業の中で、大型の電子ピアノの査定から運び出し、買取までをワンストップで任せることができます。故人の想いが詰まった大切な品を、最適な形で整理するために、信頼できるパートナーを見つけることが後悔のない遺品整理に繋がります。

